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歯科医兄妹・遺体切断事件に見る「後継者」問題と、夢を追うことのできる「自由」

 東京都渋谷区の歯科医宅で長女の短大生の切断遺体が見つかった事件で、次兄の予備校生、武藤勇貴容疑者=死体損壊容疑で逮捕=が「歯科医になるのは人のまねだ、と言われ怒りが爆発した」と供述していることが新たにわかりました。すでに公表されてはいますが、被害者の実名を伏せるのはわたしの信念です)

 被害者と加害者のあいだになにがあったのか、事実を知るのは加害者しかいないわけで、ここでは供述の真偽は置いておくとして……。


 この供述を聞いて、ふと思い起こしたことがあります。

 USEN代表取締役社長、宇野康秀さんが、以前にインタビューでおっしゃっていたことです。
 宇野社長は、ご経歴を見ればわかるとおり、USEN創業者の次男。
 といっても、大学卒業後にそのままストレートにあとを継いだのではなく、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)に1年在籍したのち、25歳でインテリジェンス(人材派遣業)を興し、代表取締役に就任、といった経歴をたどっています。

 そんな宇野社長。自らの子ども時代を振り返ってこう語っていらっしゃいます。
*****************************
 大阪有線がどんな仕事なのかをはっきり認識したのは、たぶん小学校1年生か2年生くらいですかね。母親と一緒に“有線放送大賞”に行って、それで「あぁ、有線ってこういうことやってるんだぁ」って思ったのを覚えています。

* * *

 まぁ、例え中学生でも子供ながらに親の後を継ぐのか継がないのかとか、そんなことは意識しはじめますよね。
 親が会社をやっていて、自分は次男で、自分はどうするんだろうということは考えていました。
 ただ自分は二代目の経営者として後を継ぐとか、そういう選択をしたくないっていうのが強かったものですから。じゃあ自分で独立して自分で事業家にならなきゃいけないな、と思ったんでしょうね。

* * *

 親はどうなれとかそういうのは一切言いませんでしたね。
 ただ周りが子供に対して言うじゃないですか。「大きくなったら、お父さんの会社に入って一緒に頑張んなきゃね」とか「いずれは社長よね」みたいな(笑)。
 そんなことを言われるのがすごい嫌で。それに対する反骨心みたいなものが強かったのかもしれないです。
*****************************

 これを聞いたときに、「あ、わかる」と思ったんです(おこがましくも、、、)

 なにがわかるのかというと、わたしの父も経営者なんです。父の兄弟で会社を興していて。
 で、ウチは二人姉弟で、わたしが長女、5歳下の弟が長男なんですね。

 わたしは、まえ別のブログでも書いているけれど、
「この父の娘として生まれていなかったら、わたしはいまの生き方を選んでいなかっただろう」と思っています。
 いまの生き方というのは、フリーランスとして独立したのち、会社を興こす、経営するという生き方
 世でいうところの「雇われない生き方」というやつだろうけれど、これに対してはわたしは「独立も起業も単なる手段であって目的ではない」という考え方なので、抵抗があるというか一言二言あるわけですが、まぁそれは別の機会に……ということで。

 ただ、その目的を果たすための手段として、「独立・起業」という選択肢が、おそらくまわりのひとたちよりも、すんなりと、割と自然なこととして自分のなかにあったようには思っているんですね。

 わたしも子どものころ、父の仕事場に連れて行ってもらうことがあったし、建設業という仕事柄、父の手がけた仕事、その結果を「建設物」という目に見えるかたちで見ることもできて。
 親にそんな意識はなかっただろうけれど、こうして幼いころに父の働く姿、仕事を見せてもらえたのは、わたしという人間の職業意識を成長させるのに、大きく貢献(笑)してくれたと思います。


 ウチも宇野社長のところとおなじく、親はあとを継げとか継ぐなとか、そういったことを云々言うひとではありませんでした。
 ただ、これまた宇野社長とおなじく、まわりの大人たちは「大きくなったらお父さんの会社で云々」「次期○長云々」みたいなことを言ってくるわけですよね、わたしにも弟にも。友だちにも言われてたし、子どもだからね(笑)

 それがいやで宇野社長は「反骨の精神があった」「そのまま親のあとを継ぐという選択をしたくなかった」と語っています。
 また「次男の自分はどうするんだろう」という思いが漠然とあったとも。

 このあたりがキーなんだけれども、わたしも「親の七光り呼ばわりはされたくない!」って中学生ごろに漠然と思っていたし、「父には絶対に勝てない」という偉大な父への畏怖にも似た念があったから、「父とは違う土俵で勝負する」って思いが強くなっていったんですね。
(結果、その土俵が、本を書くこと、出版することになるわけだけれども)


 あとね、正直な話、「自分は女の子だからな」ってあきらめにも似た思いがあったんです。
 建設業だし、父の会社に仮に入らせてもらうことがあったとしても、女性である自分にやれることには限界があるのでは? と。
 だから、もしあとをつぐということがあるのならば、候補者はわたしではなく、男の子である弟だと。自分のなかで、勝手に結論づけた。

 そのあきらめの気持ちが、実は、とってもラッキーなことだったんですよ。

「あきらめ」という“仮面”を借りて、わたしは「自由」を手にした。


 後継者候補から自分を勝手にはずす「自由」。
 自分の好きなことを見つけて。
 自分のやりたいことを見つけて。
 夢に向かってまい進する「自由」。


 ここで、冒頭の歯科医師宅の兄妹の殺害・遺体損壊事件に戻って考えてみましょう。

(女の子である)妹=被害者には、その自由があった自由を手にした(おそらく「自分の力で手にしたのだ」という自負が強くあったのでは?)。
 家業の後継者候補から自分をはずす自由。自分の好きなことを見つける自由。やりたいことを見つける自由。夢に向かってまい進する自由。

 一方、加害者となった次男。宇野社長も「次男の自分はどうするんだろう」と漠然と中学生のころに思ったというけれど、次男という立場は、やはり後継云々という問題においては「自分はどうなるんだろう、どうすればいいのだろう」といった迷いや葛藤に、すくなからず駆られざるをえない立場にあると思うのです。
 実際にこの加害者の兄である長男は、順調に歯科医=あとを継ぐ方向に向かっていたのだし、なおさらでしょう。(次男は母方の歯科を継ごうとしていたとか)


 親が口にしなくても、子どもって、「後継ぎ」ということについて、自ら幼いころから、なんとなくではあるけれど、子どもなりに考えているものなんですよね。

 被害者は、たまたまそこから自由になれただけ。女の子に生まれたという、偶発的なラッキーもあったけれど、彼女自身の力でもある。彼女自身が好きなことを見つけて、それにまい進した。ラッキー・彼女の力、いずれもそれだけではない。

 一方、加害者は、迷いのなかからも、そこを目指すことに決めた。拘束されていたとまではいわないが、自分で見えない拘束縄で縛っていた・縛られていたのではないかなとは思う。

「歯科医になることが人まねだ」と被害者である妹に言われたのが事実か否かは定かではありませんが、すくなくとも供述で加害者がそう述べたということは、仮に言われていなかったとしても、そう思われているようにかんじていたなど、とにかく、その言葉が、彼にとっての触れられたくない「NGワード」であったということはうかがえるでしょう。

「NGワード」はコンプレックスを示唆するものです。
「人まね」=親の七光り、兄のフォロアー、というようなところは、次男である加害者の一番触れられたくない部分でしょう。


 とはいえ、わたしは加害者を擁護するわけでもありません。
 この事件はさまざまな観点から考察でき、社会的な意味があるものです。
 そのひとつの観点として、後継者とそこから自由になることという点から考えてみました。
 経営者の娘として。また、子をもつ経営者として。


この文は、一般的に女の子よりも男の子のほう、こと長男が家を継いでいく、という現代日本の風潮に倣って書いただけです。わたし個人は、男系後継をよしとは決して思っているわけではありません)

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コメント

あ~仕事する気しね~。

この事件ですが、僕はダメ兄と勘違いしている妹という観点から見てました。うちがそういう兄弟構成なので・・

歯科医を継ぐことは夢がないことなんでしょうか。
下流になるよりは、はるかにましだ、と僕は思います。ただ、確たる目的意識がなかったのでは。
であれば、別になじられても「おまえはみすみす上流への道を降りた馬鹿者だ」と言い返すこともできたはず。それは後継者ならではの既得権やメリットを意識して、そのうえで自由なプライベートを獲得するという選択肢です。

で、問題は妹。彼女は自由だったのか、というと下手するとAV嬢か風俗への道へ足を突っ込みつつあったと思うし、泥沼に足を取られているような感じにも思えます。そうでなくても跳ねっ返りの妹になじなれれば、おとなしく内気な兄でも激怒して瞬間沸騰するのは当たり前。

口当たりのいい自由とかキーワードにいいように踊らされている妹を見てきたので、そう思います。

それはさておき、大川内さんが経営者の娘さんだったのはいまの状態にハマるべくしてはまってますよ。いいお手本がすぐそばにあったのは幸運です。
うちなんて父は国家の犬ですから。
まったく逆を歩んでるわけで、お手本はいま身近にいる人たちです。

宇野タンに関してはまー血族でどろどろの争いもありますが、ご本人は確かに直系で後継でないところが世間的にも驚きだったわけですよね。

まとまんね^

投稿: たまり | 2007/01/16 13:10

★たまりさん★
やる気が起きないときってしんどいですよね(;> へ <;)

> 歯科医を継ぐことは夢がないことなんでしょうか。
> 下流になるよりは、はるかにましだ、と僕は思います。ただ、確たる目的意識がなかったのでは。
わたしも立派な夢だと思います。
おっしゃるとおり、目的意識=そこを目指す根拠というか、なぜ自分は歯科医になりたいのか、歯科医になる喜びみたいなところがしっかりしていなかったんでしょうね。

「夢」を高々と掲げて云々というアナウンスに、逆に苦しめられているひとたちの存在が、ずっと頭のなかにあって。
この事件が起きたときには、彼らも「夢」という言葉の流行の犠牲者が出てしまったな、というのがはじめの感想でした。

たまりさんの妹さんもそんなかんじだったんでしょうか。
> 口当たりのいい自由とかキーワードにいいように踊らされている妹

いまの若い世代は「夢」をなんだかきらきらしたもの、壮大なものと勘違いさせられすぎてる。輝いて生きなきゃって思い込まされすぎてる。
よくよく話を聞いてみれば、実は立派にすてきな夢・目標をもっているのに、「こんなちっぽけなもの、、」とか「夢が見つからない。やりたいことがわからない」とか悩んでいて。
その閉塞感といったら、、
逆に「きらびやかな夢」を手にしたと勘違いしているひとも多い。「社長になること」が手段じゃなくて目的で起業して、浮き足立っているひととか。

そもそも兄にしても妹にしても、20歳そこらの子たちに、将来像を描けといってもむずかしいことなのかもなぁ。


ですよね、恵まれていると思いますわたし。感謝せねば。
ただちょっとかわいそうなのが弟で……いま迷いのなかにいるんですよね。
子どものころからさんざん(当人からすれば)気を持たせるようなことを、親以外のまわりの大人たち、親戚連中に言われて、「将来は後継者」と刷り込まれていながら、両親離婚して。当人からすれば「放り出された」気分だっただろうなぁと思います。
傍目から見れば甘いけど。
でも自分で美容師になりたいと決めて、なったんですけど、、いまちょっと、、、うぅ

投稿: 大川内 麻里 | 2007/01/16 14:28

2007年01月16日
17:36

Hさん
初めまして。ニュースからきました。

自分はこの事件が気になってしまい、日記で何度か書いています。「まともではない兄が普通の妹を衝動ではなく殺害した」という観点からです。
あと、この事件について平気で「殺されて当然」ということを大っぴらに発言する人が多いことに理解が出来ずにいます。
むしろ、この理由からこの事件を追ってしまってるのかもしれません。
「後継者」をテーマにした考察は初めて読みました。いろいろと参考になりました。ありがとうございました。

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2007年01月17日
12:24

大川内 麻里×創藝舎
★Hさん★
はじめまして。ご丁寧なコメントをいただきまして、ありがとうございます!

おっしゃるとおり、この一件に関しては、被害女性に対して聞くに堪えない発言が多く聞かれますね。生前のプライバシーをここまで暴かれる必要性があるのかというほどに暴かれ、揶揄され……。
無残な殺され方をせねばならなかった上に、死後にまでこんな仕打ちを受けることがあるのかと。わたしも思います。

それに関しては長野諏訪のアイドル志願女性による連続放火事件のときと、同様の群集心理が働いているように見えます。

Hさんの考察も拝読させてくださいませ。追ってうかがいますね!
これを機に、今後ともよろしくお願いいたします^^

投稿: (コメント転載) | 2007/04/01 04:43

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