仕事はひとりでやりなさい――チームワークと個人プレイヤーの仕事術
「大事な仕事はチームワークでやらせるのではなく、社内の優秀な人間ひとりにやらせるべきだ」――そう述べたのは、株式会社ワイキューブの代表取締役社長、安田佳生氏である。
これは、非常に理にかなっているというか、心理学的にも説明できる妥当なことだ。
では、彼の考えに社会心理学の観点からアプローチしてみよう。
1964年のアメリカ・ニューヨークで、Kitty Genoversという女性が強姦された上、殺害されてしまうという事件が起こった。
驚くべきは、後の調べによって明らかにされた目撃者数――Kittyが暴漢に襲われた悲鳴を聞き、そして強姦されてから殺されるにいたるまでの30分もの時間に、それを目撃しながらも、通報も助けることもせず、ただ傍観していただけのひとたちが、なんと38人もいたというのだ。
当初、これは都会の人間の冷淡さや、目撃者たちにとって、普段抑制されているサディステッィクな欲求を充足するものだったなどとして話題に取り上げられたが、後に心理学者のLataneらは、それに真正面から異論を唱える――「否、Kittyが誰からも援助行動を受けることができなかったのは、むしろ大勢の目撃者がいたからこそなのではないか?」
まず、①大勢が見ていたことによって、ひとりあたりの責任感が分散され、軽くなる(責任の分散)が起き、「自分が援助行動を起さなくてもいいだろう。誰かがやるだろう」とする『社会的手抜き』が行なわれてしまったのではないか?
そして、②おなじことを目撃している他人を見ることによって、他人の判断をあてにする、換言すると、他人の判断から得た情報から、実在する現実とは違った『社会的現実』がそこに生じてしまい、ひとりひとりの判断が鈍化してしまったのではないか?
その他の諸説は省くが、冒頭の「大事な仕事はチームワークでやらせるのではなく、社内の優秀な人間ひとりにやらせるべきだ」という安田佳生社長の言は、このふたつの説で、十分に説明がつくだろう。
Kitty Genovers事件での援助行動を仕事に置換してみればいいだけのことだ。
まず①になぞらえると、チームワークでは、「自分がやらなくったって誰かがやってくれるさ」「すべてが自分の責任になるわけではない」「赤信号みんなでわたれば怖くないだろう」という気が起きてしまい、仕事に手を抜く者が出てしまう。
ならば、優秀な人間ひとりに任せた方が、質の高い仕事をし、いい成果をあげることができるだろう。
次に②になぞらえると、どんな仕事にも大切な「自分で判断する力」が養われないどころか、もともとの資質としてもっている判断力さえ落ちてしまう。
ならば、優秀な人間ひとりに任せた方が、迅速で的確な判断力を発揮することだろう。
安田佳生社長が、こういった心理学的アプローチを意識しているかいないかはわからないが、わたしはこのふたつの説をもって、彼の「大事な仕事はチームワークでやらせるのではなく、社内の優秀な人間ひとりにやらせるべきだ」という言を支持する。
しかし、わたしは決してすべての仕事がチームプレイではなく、個人プレイで行なわれるべきだと考えているわけではない。
というわけで、次回は仕事をチームプレイで行なっていくことを、心理学的に考察します。
【関連記事】
「特急車内で強姦を繰り返す~ なぜ彼らは通報しなかったのか? 通報しなかった、通報できなかった乗客の心理」
「[パニック障害・うつ病・PTSD]一時的措置による回復度は……」
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コメント
TB返しでやってきました。
この記事、大変興味深いです。
自分の経験に照らし合わせてみて、「確かにそうだなぁ」と思いました。
ところで...、ビジネス書を読むドラマー、ってところが私と同じです。。
投稿: Katsuhito | 2005/10/21 13:04
TBありがとうございました。
中々興味あるページですね。ちょっと考えさせられました。
自分の場合も、「仕事はひとりでやりなさい。」を支持します。なるほどと思いました。ただ自分の場合は、複数でやると「疲れた。」・「このぐらいでいいよ」・「適当でいい」といった言葉をいつも仕事仲間から聞かされました。自分はお客さんがいる以上、手を抜くのが凄くいやです。それと一緒に仕事仲間?からこういった愚痴を聞くのも凄くいやなんです。どこへ行っても、こういった事を聞かされました。今は一人で請負でやっておりますので、こういった事を聞かなくてせいせいしております。ただグループでやる必要性も十分わかります。そういうところには、自分は足を入れないようにしております。
長々と失礼致しました。
これからもときどき拝見させて頂きます。
失礼致します。
投稿: gold46 | 2005/10/21 22:24
トラックバックありがとうございます。
σ(^_^)は、大事な仕事と大事じゃない仕事があるとは思っていません。そうやって比較する人は、たくさんいると思いますが。自分に任された以上、それは自分にとって大事な仕事だから。
でも、適材適所はあると思いますよ(^o^)。
投稿: シャローの猫@シーバス侍 | 2005/10/22 09:31
印刷して、折りたたんで、封筒に突っ込んで、送りつけるという作業をやったんだけれども、俺は見てて無駄ばかりだと思った。
デザインをサクサクこなせる人が印刷物を整理して、PC作業があまり得意ではない人が住所等の作業をし、俺はそれを見て飽きれてしまい、目上
の人だったけれども、「それはAさんにやってもらって、そっちはBさん、私はコレやって、あなたはあっちやった方がいいですって」
と言ったが「うん」と言われてそのまま無駄な作業が続行された。俺が社長でも経営者でも何でもないし、頑張ったところでもらえる金が
増えるわけでもないから無視したけど。
集団で仕事をしてるフリみたいな感じだったな。そうじゃなくて、能力別にわければ効率はカナリアップすると思ったし、そしてあんまり
時間に追われてない時に自分の畑以外の作業をいろいろやってみて、自分にできる事を増やせばいいのに。って思いましたね。
あと、事件的集団行動というのが前から気になっていて、例えば、このデザインの会社で印刷機がおかしくなってインクの色が全て反転
してしまいおかしな色調になってしまったら、皆が来て「あれれ・・・」といいながら見て、直す作業も見たりして、「皆で見てたって
なおるわけじゃなくて、修理する人は一人で十分。野次馬という事が許されると思って作業停止すんなよ」なんて思ったな。
とにかく個々の得意分野で皆で全力で走る事をマネジメントしたら、必ず良い成績がだせるような気がします。
投稿: gigababa | 2005/10/23 08:25
遅くなりましたが、トラックバックありがとうございました。
なるほど、目の付け所がユニークですね。考察もアカデミックだし、感心至極です。
自分のエントリでも触れましたが、「人は育つ」という永守流と、「人は育たない」という安田流、どちらも説得力があるだけに、読者は困ってしまいます(笑)
投稿: yuji | 2005/10/25 01:18
すみません、風邪を引いていて、すっかりレスが遅くなってしまいました。
>Katsuhitoさん
Katsuhitoさんからもトラックバックしていただき、ありがとうございます!
> ビジネス書を読むドラマー
やったっっっ!!!! お仲間発見☆(笑)
会社勤めのころに、どれだけ忘年会の余興で叩いた^^;のが久しぶりかつ最後です。
ちなみに、わたくし、ビジネス書を書いたり編集したりするドラマーでもありまーす(笑)
>gold46さん
いらしてくださって、ありがとうございます!^^
> ただ自分の場合は、複数でやると「疲れた。」・
> 「このぐらいでいいよ」・「適当でいい」
> といった言葉をいつも仕事仲間から聞かされました。
> 自分はお客さんがいる以上、手を抜くのが凄くいやです。
> それと一緒に仕事仲間?からこういった愚> 痴を聞くのも凄くいやなんです。
わたしはそういうひとたちをマイナスのエネルギーをもっているひとたちだと考えています。
人間は重力に逆らうよりも従った方が楽ですから、プラスのエネルギーをもったひとから影響を受けて自分がプラス方面へ変わることよりも、マイナスのエネルギーをもったひとからの悪影響を受けてマイナス方面へ落ちていくのはいとも簡単なことだと思います。
マイナスのベクトルにすぎないなら、まだいいんです。どんな仕事をしていたって愚痴をこぼしたくなるときはあるでしょう。それを共有できる仕事仲間にこぼしてみる。それで鬱積したものが解消されて、明日からまた頑張ることができる。それならいいと思うんです。
わたしが怖いと思っているのは、それがエネルギーになったときです。マイナスのエネルギーをもったひとは、あらゆるひとを巻き込んでともに転落していこうとします。
そういったひとに出会ったら、わたしは表面上はにこにこしていたとしても、心のなかでは引き込まれまいとふんばっています。
そんな環境のなか、「自分は自分」できたgold46さんは、とってもエライと思いますよ^^せひまたいらしてくださいね! お待ちしております。
>シャローの猫@シーバス侍さん
「大事な仕事は……」って書き出しが誤解を招いてしまったかな? ここで語られているのは大事な仕事か否かではないんだけれども、あえてそのことに触れるとすれば、そうですね、もちろんシャローの猫@シーバス侍さんがおっしゃるようなかたちが望ましいのでしょうが……実際には、自分のキャパシティーを超える物量の仕事をこなさなければならない。そんな局面に立たされると、やはり仕事にプライオリティーをつけていかざるをえないし、それは決してわるいことではないと思いますよ^^
>gigababaさん
同感。まったくもって同感。
> 集団で仕事してるフリ
多いね、こいういうの。
「あ~何日も徹夜して、あんなことがあってこんなこともあって……はぁ~大変だった」なぁんて、自分の能力のなさをさらけ出しているようなものでしょ。
それで「仕事した気」になるんだから。ね。
もしそんなあほらしいことが世のなかの評価基準になるとしたら、gigababaさんならどうする??
>yujiさん
yujiさん、いらしてくださって、ありがとうございます!&そんなもったいないほどのお言葉をいただき恐縮デス。
……といいつつも、根拠が残らずに、結論だけが浸透しているビジネス理論(たいていはこうなりますよね……ってことも心理学で説明できる笑)を心理学で斬ってみるというのは、意外とアリなのかなぁなんて思ってみました。
> 永守流と安田流
安田さんに伝えておきます(笑)
投稿: 大川内 麻里 | 2005/10/25 12:18
>>もしそんなあほらしいことが世のなかの評価基準になるとしたら、gigababaさんならどうする??
部分的に世の中そうなってるでしょまず(笑)
でもそう聞かれると、結構真剣に考えちゃうな。
自分は関わりたくない、そしてそれは何を意味するかというと、完全に手を引いて守りに入るか、納得できるもので生きていくしかないね。納得できる事をするには、もう、皆最近使ってる単語で重みも何も無い流行語だけど"起業"しかないね。
投稿: gigababa | 2005/10/25 20:03
> 部分的に世の中そうなってるでしょまず(笑)
ですな^^;
でもあえてぎがばばさん(ひらがなやとなんかかわいいな)の意見を聞いてみたかったのでし。
そうだねぇ、行き着くところそうですな。でも取引先など、そういった価値観で動いているところとかかわらざるをえない局面も多くあるわけで。
あらゆる世代にすくなからず影響のあるビジネスの成功者が発言していくべきなのではないかと思うのだが……。
↓これ、ある起業家の方への疑問です。
「起業することが、自分のやりたいことを仕事にする、一番の近道だ」
http://sex-therapy.cocolog-nifty.com/editor/2005/10/post_f119.html
投稿: 大川内 麻里 | 2005/10/25 20:25
そうですね、経営者としての器かどうかという問題もあるし、サクっと起業しても短期間でかなり儲けないと維持できないので、簡単じゃないですね。そもそも簡単だとは思ってはいないんですけれども。
でも最近よく思うんです。起業して上手くいってる人を見て「まぁ凄いけど、あんまたいした人間じゃないなこの人」と思う場合があるんです。
>>でも取引先など、そういった価値観で動いているところとかかわらざるをえない局面も多くあるわけで。
そうですよね。逃げる事はできませんよね。でも自分のまわりで納得いかない事があるのは我慢ならないけれども、他の場所で馬鹿みたいな事が行われてたら、鼻で笑いながら、そこの取引先が求めている、もしくは波風立たないように「仮面」をかぶるのがいいんじゃないでしょうか。
取引先の人の個人の趣味、性格を把握し、それに対して「仮面」を装着という具合に。
投稿: gigababa | 2005/10/29 09:48
>ギガババさん
どもどもこんばんは~♪
> 起業して上手くいってる人を見て「まぁ凄い
> けど、あんまたいした人間じゃないなこの人」
わたしもそういった方々を取材したり接したりすることの機会の多い仕事なので、事前に下調べをしていざご対面……となると「えぇ~?!」ってことが多いです。人間としてどうかってことですね。
たしかに頭はいい、論理的思考能力にたけている、アイデアがすごい……それでも、なにかが欠けているんですよね。
投稿: 大川内 麻里 | 2005/11/02 02:37